2014年01月07日
自動車内への閉じ込めによる傷害
http://www.jpeds.or.jp/uploads/files/injuryalert/0043.pdf
日本小児科学会こどもの生活環境改善委員会
Injury Alert(傷害速報)
No. 43 自動車内への閉じ込めによる傷害
事例1
事 例年齢:0 歳2 か月 性別:男児 体重:3.7kg
原因対象物自家用車(電子キー)
臨床診断名自動車への閉じ込め
発生状況
発生場所外出先の駐車場
周囲の人・状況本人,母親
発生年月日・時刻2013 年3 月8 日 午前11 時ごろ
発生時の詳しい
様子と経緯
外出先の駐車場で,用事が済んだ母子で車に戻り,児をチャイルドシートに着席させた.
発車するために母親が車外から運転席に回ろうとしたところ,何の操作もしていないのに
車の電子キーが誤作動してドアがロックされてしまった.その際キーが入ったかばんを室内
に置いたままであったためドアを開けられなくなった.スペアキーは自宅にしかなく,ロー
ドサービスに連絡したが到着に20 分以上かかるとの返答であったため119 番に相談し,レ
スキュー隊により乗用車のガラスを割って室内からロックを解除し児を救出した.事故発生
から18 分経過していた.
治療経過と予後
今回は3 月とはいえ,比較的温暖な晴天の日であったため,児に高温,低温などによる障害
は発生しなかった.
しかし季節や時間帯,場所などによっては重大な事故にいたる危険があったと考えた.
事例2
事 例年齢:1 歳3 か月 性別:男児 体重:8.1kg 身長:79cm
傷害の種類熱中症
原因対象物自動車ロック
臨床診断名熱中症
医 療 費44,360 円
発生状況
発生場所自動車内
周囲の人・状況母は,児の送迎のために児をチャイルドシートに乗せ,運転席に乗り込もうとしていた.
発生年月日・時刻2013 年8 月30 日 午前9 時30 分
発生時の詳しい
様子と経緯
自家用車の修理中で,自家用車と異なる鍵のシステムの代車を借りていた.ドアについて
いるボタンを押せば,鍵が近くにある限り開錠すると理解していた.通常は児に鍵を持た
せることはしていない.
児を車で送迎するためにチャイルドシートに座らせた.その際,児に車の鍵を持たせていた.
母親が運転席に回り,乗り込もうとしたところ,児が車内から車の鍵についているボタン
を押して車を施錠し,外からは開けられない状況に陥った.外気温30 度以上の晴天の日で,
日陰のない駐車場であった.茶色の車であったため,車内の温度が上昇することが予想さ
れ,近隣住民が車にブルーシートをかけて放水しつつ,ロードサービスと救急隊を呼んだ.
児は車内で恐怖のため暴れて泣き,発汗著明,顔面は紅潮し,30 分ほどでぐったりと座り
込んでしまった.
治療経過と予後
ロードサービスの到着を待たず,救急隊の判断でガラスを割って児を救出した.児の体温
は39.9 度,ややぼんやりとした様子であったが,飲水は可能であった.全身状態不良と判断
され,3 次救急施設にホットラインで搬送されてきた.
救急車内で急速にクーリングを行い,来院時の体温は36.6 度であった.全身状態は安定して
いたため,小児科にて診療した.顔面は紅潮し,体熱感が強く,初期輸液として生理食塩液を
200ml 輸液した.血液生化学所見は異常なく,尿ケトンは陰性であった.診察上,上気道炎,
胃腸炎など感染症を疑う徴候はなく,同日朝,自宅では平熱であった.
治療後は,摂食が可能となり,通常の精神状態で,体温も36 度台で安定し帰宅した.
1826(― 154) 日本小児科学会雑誌 第117巻 第11号
【こどもの生活環境改善委員会からのコメント】
1. 自動車の車内で,どのような子どもの事故が起こっているのだろうか.JAF(日本自動車連盟)による
調査(2012 年12 月~13 年1 月,対象:7,048 人)1)によると,子どもの車内事故の経験者は1,994 人
(28.2%)あり,急ブレーキ時に頭や身体を強打(35.5%),ドアに手や足を挟んだ(25.5%),パワーウ
インドウに手・足・首などを挟んだ(16.3%)の順となっていた.熱中症,脱水症状になったのは1.2%
と報告されているが,詳しい発生状況は記載されていない.この調査結果は,10 年前の調査結果2)とほ
とんど変わっていない.
子どもを車内に残したまま車を離れたことがある人は28.2%で,その理由として,「車に子どもを残し
ておいた方が安全」「子どもが寝ていた」「数分で終わる用事のため」「人ごみに行くと風邪がうつる」
などが記載されていた1).
2. 2012 年7~8 月の2 か月間に,JAF が出動したキー閉込みの救援のうち,子どもが車内に残されたまま
であったケースは全国で470 件あった.このうち,緊急性が高いと判断し,通常の開錠作業ではなく,
ドアガラスを割るなどして車内の子どもを救出したケースは24 件であった.現場での聞取り調査によ
ると,原因の多くは「子どもが誤ってロックを操作した」というものであった.
3. JAF が実施した車内温度の検証テストによれば,気温35 度の炎天下に駐車した車内の熱中症指数は,
窓を閉めきった状態では,エンジン停止後,わずか15 分で人体にとって危険なレベルに達するとされ
ている.自動車内に閉じ込められる事故は,冬にも起こっている.大雪の後,小ぶりになった時に,自
動車に降り積もった雪かきのために子どもといっしょに外に出る.雪かきの間,車のエンジンをかけ
て,子どもには寒くないように自動車の中で待っていてもらう.自動車の排気管が大雪のために閉塞し
た状態でエンジンをかけると,排気ガスが車内に逆流し,車内の一酸化炭素濃度が急上昇し,一酸化炭
素中毒となる事例が知られている3).
4. 最近では,利便性のため,バッグの中から自動車の鍵を出さなくても開錠できるシステムが装備される
ようになったが,それらのシステムが自動車メーカーによって異なっていること,またそのシステムが
付いている車と付いていない車があること,幼児が車のキーを操作する場合が想定されていないことな
ど,鍵による閉じ込め事故が起こりやすい状況がある.
5. 本来,自動車の施錠は防犯のためであり,容易に開錠できては意味がないが,今回の事例のような状況
は,データでも示されているようにあちこちで起こっている.乳幼児では,とくに夏と冬に自動車内に
閉じ込められると,傷害につながる可能性が高くなる.今回の事例を参考に,乳幼児と母親の組み合わ
せで,自動車の鍵に関してどのような動作が起こりうるかの検討が必要である.自動車の鍵は,防犯機
能の確保を担保した上で,施錠,開錠システムについては統一のシステムであることが望ましい.ま
た,幼児などによる誤作動を防ぐ機能も検討する必要がある.
文 献
1) JAF:子どもの車内事故に関するアンケート調査.2013 年
2) JAF:どうすれば防げる? 子供の車内事故.JAF Mate, 41(6):12―14, 2003
3) 山中龍宏:子どもたちを事故から守る.小児内科 36:508―510, 2004
日本小児科学会こどもの生活環境改善委員会
Injury Alert(傷害速報)
No. 43 自動車内への閉じ込めによる傷害
事例1
事 例年齢:0 歳2 か月 性別:男児 体重:3.7kg
原因対象物自家用車(電子キー)
臨床診断名自動車への閉じ込め
発生状況
発生場所外出先の駐車場
周囲の人・状況本人,母親
発生年月日・時刻2013 年3 月8 日 午前11 時ごろ
発生時の詳しい
様子と経緯
外出先の駐車場で,用事が済んだ母子で車に戻り,児をチャイルドシートに着席させた.
発車するために母親が車外から運転席に回ろうとしたところ,何の操作もしていないのに
車の電子キーが誤作動してドアがロックされてしまった.その際キーが入ったかばんを室内
に置いたままであったためドアを開けられなくなった.スペアキーは自宅にしかなく,ロー
ドサービスに連絡したが到着に20 分以上かかるとの返答であったため119 番に相談し,レ
スキュー隊により乗用車のガラスを割って室内からロックを解除し児を救出した.事故発生
から18 分経過していた.
治療経過と予後
今回は3 月とはいえ,比較的温暖な晴天の日であったため,児に高温,低温などによる障害
は発生しなかった.
しかし季節や時間帯,場所などによっては重大な事故にいたる危険があったと考えた.
事例2
事 例年齢:1 歳3 か月 性別:男児 体重:8.1kg 身長:79cm
傷害の種類熱中症
原因対象物自動車ロック
臨床診断名熱中症
医 療 費44,360 円
発生状況
発生場所自動車内
周囲の人・状況母は,児の送迎のために児をチャイルドシートに乗せ,運転席に乗り込もうとしていた.
発生年月日・時刻2013 年8 月30 日 午前9 時30 分
発生時の詳しい
様子と経緯
自家用車の修理中で,自家用車と異なる鍵のシステムの代車を借りていた.ドアについて
いるボタンを押せば,鍵が近くにある限り開錠すると理解していた.通常は児に鍵を持た
せることはしていない.
児を車で送迎するためにチャイルドシートに座らせた.その際,児に車の鍵を持たせていた.
母親が運転席に回り,乗り込もうとしたところ,児が車内から車の鍵についているボタン
を押して車を施錠し,外からは開けられない状況に陥った.外気温30 度以上の晴天の日で,
日陰のない駐車場であった.茶色の車であったため,車内の温度が上昇することが予想さ
れ,近隣住民が車にブルーシートをかけて放水しつつ,ロードサービスと救急隊を呼んだ.
児は車内で恐怖のため暴れて泣き,発汗著明,顔面は紅潮し,30 分ほどでぐったりと座り
込んでしまった.
治療経過と予後
ロードサービスの到着を待たず,救急隊の判断でガラスを割って児を救出した.児の体温
は39.9 度,ややぼんやりとした様子であったが,飲水は可能であった.全身状態不良と判断
され,3 次救急施設にホットラインで搬送されてきた.
救急車内で急速にクーリングを行い,来院時の体温は36.6 度であった.全身状態は安定して
いたため,小児科にて診療した.顔面は紅潮し,体熱感が強く,初期輸液として生理食塩液を
200ml 輸液した.血液生化学所見は異常なく,尿ケトンは陰性であった.診察上,上気道炎,
胃腸炎など感染症を疑う徴候はなく,同日朝,自宅では平熱であった.
治療後は,摂食が可能となり,通常の精神状態で,体温も36 度台で安定し帰宅した.
1826(― 154) 日本小児科学会雑誌 第117巻 第11号
【こどもの生活環境改善委員会からのコメント】
1. 自動車の車内で,どのような子どもの事故が起こっているのだろうか.JAF(日本自動車連盟)による
調査(2012 年12 月~13 年1 月,対象:7,048 人)1)によると,子どもの車内事故の経験者は1,994 人
(28.2%)あり,急ブレーキ時に頭や身体を強打(35.5%),ドアに手や足を挟んだ(25.5%),パワーウ
インドウに手・足・首などを挟んだ(16.3%)の順となっていた.熱中症,脱水症状になったのは1.2%
と報告されているが,詳しい発生状況は記載されていない.この調査結果は,10 年前の調査結果2)とほ
とんど変わっていない.
子どもを車内に残したまま車を離れたことがある人は28.2%で,その理由として,「車に子どもを残し
ておいた方が安全」「子どもが寝ていた」「数分で終わる用事のため」「人ごみに行くと風邪がうつる」
などが記載されていた1).
2. 2012 年7~8 月の2 か月間に,JAF が出動したキー閉込みの救援のうち,子どもが車内に残されたまま
であったケースは全国で470 件あった.このうち,緊急性が高いと判断し,通常の開錠作業ではなく,
ドアガラスを割るなどして車内の子どもを救出したケースは24 件であった.現場での聞取り調査によ
ると,原因の多くは「子どもが誤ってロックを操作した」というものであった.
3. JAF が実施した車内温度の検証テストによれば,気温35 度の炎天下に駐車した車内の熱中症指数は,
窓を閉めきった状態では,エンジン停止後,わずか15 分で人体にとって危険なレベルに達するとされ
ている.自動車内に閉じ込められる事故は,冬にも起こっている.大雪の後,小ぶりになった時に,自
動車に降り積もった雪かきのために子どもといっしょに外に出る.雪かきの間,車のエンジンをかけ
て,子どもには寒くないように自動車の中で待っていてもらう.自動車の排気管が大雪のために閉塞し
た状態でエンジンをかけると,排気ガスが車内に逆流し,車内の一酸化炭素濃度が急上昇し,一酸化炭
素中毒となる事例が知られている3).
4. 最近では,利便性のため,バッグの中から自動車の鍵を出さなくても開錠できるシステムが装備される
ようになったが,それらのシステムが自動車メーカーによって異なっていること,またそのシステムが
付いている車と付いていない車があること,幼児が車のキーを操作する場合が想定されていないことな
ど,鍵による閉じ込め事故が起こりやすい状況がある.
5. 本来,自動車の施錠は防犯のためであり,容易に開錠できては意味がないが,今回の事例のような状況
は,データでも示されているようにあちこちで起こっている.乳幼児では,とくに夏と冬に自動車内に
閉じ込められると,傷害につながる可能性が高くなる.今回の事例を参考に,乳幼児と母親の組み合わ
せで,自動車の鍵に関してどのような動作が起こりうるかの検討が必要である.自動車の鍵は,防犯機
能の確保を担保した上で,施錠,開錠システムについては統一のシステムであることが望ましい.ま
た,幼児などによる誤作動を防ぐ機能も検討する必要がある.
文 献
1) JAF:子どもの車内事故に関するアンケート調査.2013 年
2) JAF:どうすれば防げる? 子供の車内事故.JAF Mate, 41(6):12―14, 2003
3) 山中龍宏:子どもたちを事故から守る.小児内科 36:508―510, 2004